人工衛星(ICESAT2,DAQI1)が照射するレーザー光を観察する

2024-06-20

Celestrak DAQI1 ICESAT2 Stellarium

t f B! P L

太陽光を反射して光る通常の人工衛星と異なり、自ら光を発しながら周回している人工衛星は観察対象としても興味深いものです。

■ICESat-2

2018年9月にNASAが打ち上げた地球観測衛星ICESAT-2は波長532nmのグリーンレーザーを地表に向かって常時照射しながら飛行しています。送出した光と戻ってきた光の時間差から距離を測定するいわゆるLIDARで地球全域の標高を測り続けています。約90日で一巡する観測を継続しているため例えば極地域の氷の厚さの変化も把握できるということで、地球温暖?化関連のテーマにつながるプロジェクトとも言えるでしょう。2022-09-16の夕方藤井大地さんの流星観測用カメラがこの衛星の発するレーザー光のビーム端が上空の雲を照らしながら移動する様子を偶然捉えて話題になりました。

 

具体的には共通の光源からのレーザー光を回折光学素子で6本に分割し強弱ペアx3組で地上をスキャンしています。強弱の光パワーの比率は4:1、強弱のビームの距離は2.5km、ペア間の距離は3.3km、強弱のビームは全く同じ位置ではなく90m離れた位置を通ります。光源は10kHzで駆動しているのでほとんど連続発光のように視認されます。

地上におけるビームの直径は約17mです。靄の多い夜にビームの直撃を受けたときは周囲が緑色に光るのを感じるほどでした。これはおそらくビギナーズラックでその後は一度も直撃を受けることはできていません。

ICESat-2の公式サイトに概要や説明動画があります。
https://icesat-2.gsfc.nasa.gov/science/specs
https://icesat-2.gsfc.nasa.gov/multimedia
https://svs.gsfc.nasa.gov/11726


ICESAT-2の周期は94.2分なのでレーザー光のスポットが地表を移動する速度は

6378000*2Pi/(94.2*60)=7090m/s=25525km/h

と新幹線の100倍くらいの速さです。10kHzパルス発光なので70.9cm進むごとに直径17mのビームが1発照射されていることになります。進行方向に沿って切れ目なく照射されているわけです。

雲の無い快晴の夜に強弱ペアが通過する位置から観察していると進行方向に2.5km離れた強弱2本のビームが約0.35秒の時間差でチャチャっと通過する様子が肉眼でも見えます。特に靄がかかったような気象条件のときにはレーザービームが途中でミー散乱を受けるため緑色の光の通り道がわかりやすくなります。このような現象は発見者の名前を取ってチンダル現象と呼ぼれています。スモークを焚いたコンサート会場や雲の切れ間から太陽光が地上に届く「天使の梯子」なども同じ原理です。

さて、これを見ようとするときはどうすればよいでしょうか?一番確実なのは3ペアのうちのセンターのペアが通る位置に陣取ることです。ビームの照射位置は完全に衛星の真下というわけではなく観測のサイクルごとにわずかに角度を調整しているそうです。(なかの人から聞きました。公式サイトの説明図の中にも「Operational off-nadir pointing over land areas」という記述がありました。)しかし、われわれ素人がお楽しみで眺める程度ならほぼ真下と考えておくしかなさそうです。

ICESAT-2を表示するためStellariumにセットするURLは以下ですhttps://celestrak.org/NORAD/elements/gp.php?CATNR=43613

Stellariumで人工衛星の位置や動きを表示する方法については 下記の投稿を参照してください。
https://apnea3.blogspot.com/2023/08/starlink.html

これで現在地からどう見えるかはわかるようになりましたが問題はこの衛星が天頂に見えるような観測場所はどこかということで、これはStellariumで探れないこともないのですが手間がかかり厄介です。この目的に叶うサイトがあるのでまずはこちらで当たりをつけます。https://www.n2yo.com/passes/?s=43613

10日以内に可視状態で通過することがあればここに表示されるのですが、今の時期はたまたま可視通過が全くない時期だったようでデフォルトでは何も表示されていません。

ここで衛星に光が当たっていない通過も表示させるため「All passes」ボタンを押すと設定した所在地から地平線より上に見える通過の一覧が表示されます。


この表の中央「Max Altitude」列に注目します。LocalTimeが昼間の行は見えないので対象外、この時刻が夜の行の中でEL(elevation 地表高度)ができるだけ大きな行を探します。これが大きいほど所在地から観測地までの距離が近いので移動が少なくてすみます。90度なら理想的でレーザービームが自分の所在地を照らしながら通過することを意味します。この表は倉敷市基準ですが2023/11/10の23:04に87度まで昇ることがわかります。これならわずかに移動するだけで衛星が天頂に見えそうです。

衛星は極地方を通って周回しているので南から北へ通過する場合と北から南に通過する場合があります。StartとEndの列を見れば通過の方向がわかります。

右端の列の「Map and details」のリンクをクリックすると地図が表示され衛星の地上軌道がオーバーレイされます。この地図は住宅地図レベルまで拡大でき観測場所の精密な確認が可能です。このライン上であればどこでもレーザー光を浴びることが可能なのでこの地図や相当する場所のGoogleMap、GoogleStreetView等で現地の状況や視界の様子、駐車可能な場所があるか等を検討して観測適地の候補を選定します。通過の際の天候も考慮して離れた場所にも観測地を探しておく方がよいでしょう。

 
 


正確な観測位置が決まったら対応する場所のGoogleMap上でその地点を長押しすると座標がわかります。Stellariumの観測地設定画面を出し、「都市名」フィールドにこの場所の座標を貼り付けて場所を新規登録します。名前は
ice-20231110-Kurashiki-34°35'01.5"N 133°47'12.4"E(座標はサンプルです。)
などど入力しこの文字列中の座標の部分を選択コピーして左の設定フィールドに貼り付けて「リストに追加する」ボタンで保存してやればあとでice-と入力するだけで検索呼び出しもできて便利です。

正確な座標が決まったら衛星が本当に天頂を通るかStellariumで確認します。するとなぜかたいていの場合衛星の軌道は天頂から外れています。(これを書いているのは11/7です。)


この文章を執筆中にも軌道要素に変動がありました。次の2つの図は上記と軌道が変わっています。上側がN2YOサイトの予報線上のあるポイント、下側は経度のみ角度の30.7秒マイナス修正することでICESAT-2の軌道が正確に天頂を通るようにしたところです。
 


そこで逆にGoogleMapで「34°35'01.5"N 133°46'41.7"E」を検索するとN2YOの予報よりも西に774m離れた位置にアイコンが表示されました。つまりN2YOの予報もそのまま信じてしまうのは危険ということです。



N2YOサイトが元にしている軌道要素の出典が不明なので比較はできませんが、更新頻度や更新のタイミングによる差もあるかもしれませんし、アルゴリズムに違いがあるのかもしれません。この例は実際の通過まで日数もありかなり誤差があると思われます。軌道要素は様々な要因で変動します。太陽活動によって高層大気の密度が変わると飛行の抵抗も変わります。また衛星のオペレーションのため人為的に軌道や姿勢を変更する場合もあります。いずれにしてもできるだけ直前の変動を反映した地上軌道の確認が必要でしょう。候補地探しはいつでも柔軟に対応できるようにしておく必要があります。

なお、ICESAT-2の通過を予報できるモバイルアプリが存在しておりNASAのICESAT-2のサイトでも紹介されています。
https://play.google.com/store/apps/details?id=gov.nasa.gsfc.icesat2.icesat_2&hl=en_US&gl=US&pli=1
が、結論だけ言うとこれは今のところ使い物になりません。
位置も時刻も不正確です。周回しているので偶然近い軌道を通ることもありますがその場合も時刻は数十分ズレていたりします。なかのひとに確認したところ1つのサイクル(約90日分)についてサイクルの始まる1か月前にRGT(参照地上軌道のKML)を計算してしまうのだそうです。ということは最大4ヶ月の時間差ができるわけです。上述したように人工衛星の軌道は常に変動しており観測結果を元に常に軌道要素は修正されなければなりません。素人でもこれくらいは分かるのにNASAが紹介・公開しているアプリがこのような仕様になっているというのはちょっとお粗末なのではないでしょうか。ICESAT-2の用途としてはLIDARの計測とセットでその時の正確な姿勢や位置情報が取得できていればいいので事前計算したRGTが実際と異なっていても問題はないのでしょうが...。

■ICESAT-2観察のポイント

天候によってポイントは大きく異なります。快晴で大気の透明度も良い場合は前掲のようなビームの散乱は見えづらくなります。また、該当するビームの強弱のペアしか視認できず、3.3km東西に離れた別のペアは殆ど視認できないでしょう。

チンダル現象を起こすような靄やPM2.5などが存在している場合は前掲のような散乱光を見ることができます。高い位置まで粒子が存在している場合は隣のペアの強い方のビームによる散乱光が見える可能性はあるでしょう。

上空に薄雲がある場合は様相が異なります。薄雲がスクリーンとなりビーム端が光の点として映し出されます。これが衛星の飛行速度で移動するため線状に視認されます。この場合薄雲によって光は減衰するためチンダル現象による散乱光は見えづらくなるでしょう。

薄雲が高い位置にある場合、隣のビームペアも視界に入ってくる可能性があるので興味深い光景を目撃できる可能性が出てきます。実際筆者は薄雲の上に模式図通りの6つの光点が映って高速に移動する光景を肉眼で目撃したことがあります。その時の撮影で強弱ペアの光跡が写せたので雲の高さが約300mと推定できました。背景に星が透けて見えるくらいの薄雲が流れている状況だったのですがこのくらいの低さでも6点を同時に眼視できる可能性があります。高さが上がればもっとゆっくり鑑賞できることでしょう。



ビームの軌跡が撮影できた別の例も挙げておきます。

2023-11-10 23:04:54 岡山県浅口市寄島町 α7SIII+EF50mmF1.4 120fps動画


この日は薄雲の雲高がかなり高く中央と西側のペアが同じ画角内に写り、ここからおよそ9kmと推定されました。雲の状況によりますが、35mm~20mm位の明るいレンズがあれば3ペア6本ともビーム端の軌跡を写すことができるかもしれません。


撮影の際はタイムラプスを撮影するような方法はおすすめできません。レーザー光の通過は一瞬なのでコマとコマの間に光れば何も写りません。やはり動画撮影が必須です。特に上空に雲がある場合、雲に映ったビーム端の移動を捉えるためには感度が許す限りフレームレートは高くした方が動きがわかってよいでしょう。筆者も数えるほどしか経験がないのでまだ試行錯誤の段階ですが毎回何らかの発見(&失敗や後悔)があります。

撮影も面白いのですが通過の瞬間はぜひ肉眼で天頂を見上げておくことをおすすめします。観測場所の座標が決まりその座標でStellariumを使って衛星の通過時刻を確認しておけばほぼ間違いはないので、時報を流しながら構えておけばタイミングを逃さなくて良いと思いま
す。大気の透明度が良い場合は特にビームの指向性が鋭くなるのでかなり正確に直下で構えていないと肉眼では視認できない可能性があります。

ICESAT-2について詳しく知りたい方は下記を参照してください。
https://icesat-2.gsfc.nasa.gov/


また、有料ですが下記サイトから更に詳しい情報を得ることもできます。
https://www.spiedigitallibrary.org/conference-proceedings-of-spie/11151/111510C/ICESat-2-mission-overview-and-early-performance/10.1117/12.2534938.short?SSO=1


前掲画像の元になる動画です。再生速度は1/4にしています。最初に弱のビーム、続いて強のビーム、そのあと淡いのですが東側のペアの強と思われるビームのかすかな散乱光が映っています。あえてN2YOサイトの予報ライン上で撮影しました。ビームは右寄り(西寄り)に写りStellariumによる予測の方が正しかったことが確認できました。


2023-11-02 23:21:48 JST 月齢19.6 離角60度
EOS6D 50mmF1.4 動画1920x1080 30fps
兵庫県三木市にて撮影
画像処理で少し明るくしています。

■2024-05-10 CMEの影響で休止中

日本国内でも低緯度オーロラが見えたほど強烈なCMEが発生した5月以降、ICESat-2は影響を受けセーフホールド状態に入り観測中断となりました。快晴好条件の天頂通過を撮影しようと臨んだのですがレーザー光が全く見えず、公式サイトを確認してみると下記のような告知が出ていました。せっかくフォローしている@NASA_ICEでの告知もなく気づかないまま観測に出かけて無駄足を踏んだのでした。

 


その後NASAのブログに下記の記事が出ましたが日程については6/25日現在も更新されておらず、確定情報がありません。既に観測を開始し機器のテストを行っている状況なのかもしれません。6/28に岡山県備前市日生付近を通過するので晴れていれば確認してみようと思います。



2024-07-02 復旧確認!
告知された6/17が過ぎてもICESat-2の公式サイトやNASAからの復旧アナウンスが無いままなので待ちきれず、近隣の笠岡市を通過する7/2の通過について発光確認に出かけました。雨がやんだばかりで全天雲に覆われていましたが衛星通過のタイミングに合わせたかのように雲の薄い部分が天頂に移動してきたため緑のレーザー光を肉眼とカメラで捉えることができました。すぐ近くにこと座のVegaがいるのですが雲に隠れて全く見えていません。正確な軌道の真下から見えたことでATLASは稼働してNadirPointにレーザー光を照射していることが確認できました。


N2YOの一番上の行が今回の通過



GoogleMap上で見つけた候補地からの見え方と時刻をStellariumで確認


雨上がりの現地



ICESat-2の天頂通過と雲の薄い部分が天頂を通過するタイミングが偶然一致
光が肉眼でも見えました。(EOS6D+50mmF1.4 30fps動画撮影より)



SONY α7sIII+14mmF1.8 120fps動画を0.25x速

後日確認するとICESAT2のトップページに6/21復旧の告知が出ていました。
ICESat-2 Resumes Data Collection After Solar Storms
NASA’s ICESat-2 satellite returned to science mode on June 21 UTC, after solar storms in May caused its height-measuring instrument to go into a safe hold.」

リンク先には詳しめの説明があります。(DeepL)

「NASAのICESat-2衛星は、5月の太陽嵐により高さ測定装置が安全停止状態に陥った後、6月21日(UTC)に科学モードに復帰した。ICESat-2チームは、このミッションの観測機器である先進地形レーザー高度計システム(ATLAS)と呼ばれるライダーを再起動させ、地球の氷、水、森林、陸地の高さに関する正確なデータを再び収集した。探査機や観測機器に損傷は見つかっていない。

ICESat-2の観測機器は、太陽嵐によって探査機に予期せぬ抵抗が生じた5月10日以来、安全な状態に保たれていた。このため、観測装置を保護するためにATLASの電源を切るという自動的な対応が行われた。嵐はまた、探査機を通常の軌道から引き離し、3.7マイル(6km)垂直に下降した。

ICESat-2の運用チームは、衛星を目的の軌道に戻すために一連のスラスター燃焼を行い、ATLASを再びオンにするための一連のコマンドを完了した。また、レーザー温度の微調整も行った。

メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターのプロジェクト・サイエンティスト、トム・ノイマンは、ICESat-2チームは今後も衛星と観測装置の監視を続けると述べた。

ICESat-2による観測データは、www.nsidc.org、無料で一般公開されている。このデータには、変化する地球の氷床、氷河、海氷、森林地帯、内陸水域などに関する、ICESat-2による5年半にわたる重要な測定結果が含まれている。


■X (旧Twitter)への投稿

藤井大地さんのTweetに触発されてレーザー光が撮影できそうな条件を探し岡山からはるばる鈴鹿まで出かけた時の記録です。


 

■DAQI-1



地表に向かってレーザーを照射している人工衛星としてはICESAT-2の他にも中国が運用しているDAQI-1があります。ICESAT-2よりもレーザー出力は弱いように思われますが撮影することは可能です。2023年1月にマウナケアの高感度ライブカメラにこの衛星から照射される
レーザーによる散乱光が偶然映り込んだことで話題になりました。
https://youtu.be/vn_PMiND4Yw


このときの映像を見ると20Hz位で間欠的な照射を行っているようです。

衛星に関する情報が下記で紹介されています。

軌道を確認するためStellariumにセットするURLは
https://celestrak.org/NORAD/elements/gp.php?CATNR=52257

N2YOのサイトによる通過予報は
https://www.n2yo.com/passes/?s=52257
です。

 



2023-11-01  01:51:40 倉敷市内にて撮影
Borg77mm+Reducer 合成焦点距離330mm
α7SIII動画から4K解像度の中心部HDを切り出したもの。
120fpsで撮影した動画はそのままでは表示できないので4倍スローにしています。

比較明合成の画像から比較的明るく見えているのは天頂通過の30’前から天頂通過まで。
高度700kmから地上におけるビームの広がりを真円と仮定して直径を計算すると
2*Tan(0.5deg/2)*700=6.1km
NadirPointの移動ラインを中心とした幅6km位の帯の中から見上げれば照射されるビームのおこぼれを視認できる可能性が高そうです。(ただし進行方向の左右にオフセットがあればこの限りではありません。)これはあくまでもおこぼれであって中心の強いビーム(約338m間隔で立っているビームの柱)の広がりがどの程度の直径なのかは資料がなく不明です。(ICESAT-2の場合は直径約17m)


■ハワイで見られたようなビーム散乱光が撮影できるか?

Last night (early morning 2023-1-28 HST) was cloudy on Maunakea. But our Subaru-Asahi Star Camera captured quite an interesting view -- green laser lights coming from the sky! It was only a second or less -- but our keen viewers did not miss the event!

動画のCaptionを見ると当日は雲が存在していたようです。ビームはICESAT-2に比べてかなりパワーが弱いようなので快晴だとまず散乱光は写らない気がしますが、新月、光害なし、薄雲や靄ありの状況下なら可能性はあると思います。すばる-朝日星空ライブカメラはSONYα7S III +FE 24mm F1.4 GMの組み合わせだそうです。(明るいレンズがうらやましい...)

Youtubeを探してみるとDAQI-1のビームが薄雲で散乱される様子が福島県で撮影されていました。まだらに存在している雲をビームが通過するところだけ光っています。人工灯火の少ないロケーションで気象条件さえ整えば写せる可能性はありそうです。

福島滝川ライブ 2022/12/20 1:30の不思議な緑の光(1/29解決と思いきや、2/13さらに新情報が!)
https://youtu.be/Zg3EIKyw4Ns?si=_uNLWpQyrmsXEgng

その切り抜き
https://youtu.be/QhhmxJsZzQU?si=9v4JVuBxTwpaKyaV&t=24

これとは別に素晴らしい撮影をされている方を発見しました。三重県桑名市でこと座流星群観測中に偶然DAQI-1のレーザー光が捉えられていたようです。機材は動体検知機能を持つUFOCaptureとNikonZ6+24mmF1.4の組み合わせなので画角はマウナケアと同じです。層状の雲があったようでパルス発光に対応して雲に光のドットが投影されており、ビーム進行方向の線上の散乱光も一部捉えられています。撮影は2024-04-23 03:39:18-19です。この動画の存在に気づくのが遅かったため軌道要素もかなり変わっており、Stellariumによるシミュレーションは今となっては不可能です。

「空と雲のフォト日記」

DAQI-1のレーザー光が散乱している様子を捉えた画像・動画は現時点でわかっている限り
  • 2023-01-28 ハワイ マウナケア
  • 2022-12-20 福島県 滝川渓谷
  • 2023-04-23 三重県 桑名市
の3件だけです。ビームの拡散光が直接届いている例は自分も含めてネット上にそこそこありますがやはり雲の層に投影されたビーム端やビームがチンダル現象で散乱している様子を捉えてみたいものです。

自分でも撮影する日のためにビームの見え方をシミュレーションしておきます。
DAQI-1の周期は98.8分なのでNadirポイントの移動速度は
6378000*2Pi/(98.8*60)=6760m/s
Daqi-1のパルス頻度20Hzで割るとビームの間隔は
6760/20=338mとなります。

この間隔で光の柱が立っている状況をGoogleEarth上に描画してみましょう。自分で座標を按分計算してもよいのですがちょっと面倒なので、以下のプロンプトをAI「perplexity」に与えてKMLファイルを作ってもらいました。

「海抜ゼロメートルから5000メートルまで伸びた垂直な直線が338m間隔で南北に22本並んでいる状態を表すKMLを作成してください。その際、一番北側の直線の地表座標を 35°23'20.03"N 138°43'46.58"Eとします。残りの21本の直線の地表座標も計算して省略せずにKMLとして示してください。」


このやりとりは下記URLで再現できるのでパラメータを変えて再実行可能です。

右上のアイコンをクリックしすると出てきた回答がコピーできます。テキストエディタに貼り付け拡張子をkmlとして保存します。これをGoogleEarthで開き、プロパティで高さを「地面に固定」から「海抜」に変更すると高さを反映した線分が表示できます。色や太さや透明度もGoogleEarth上で自由に変更できます。

この例ではスケール感がわかるように富士山上空を南北に通過するビームをスバルライン側から焦点距離35mmレンズの水平画角で見上げたときの状況を描画してみました。ビームは1秒間にこの程度移動します。
N2YOやstellariumで切りの良い時刻2点におけるNadirポイントの座標を読んで上記aiに補間計算してもらえば通過の都度の精密なシミュレーションが可能です。



実際の通過撮影にトライ

2024-06-29にDAQI-1のNadirPointが岡山県備前市を通過する予報が出ていました。SCWによると快晴ではなく曇りがちの予報です。直下に良い観測場所があったのですがあえてそこから西に2kmほど離れた場所から見上げる形での撮影を試してみました。KMLを作成しHFOVを14mmに設定したGoogleEarth上に描画して画角を確認しておきます。こうしておけば現場で山のシルエットと合わせて方位や仰角が設定しやすくなります。倉敷を出発するときには雲も薄くまだらな感じで少し期待していたのですが現地に着く頃には全天厚めの雲に覆われてしまい、低空にある月さえ全く見えない状況でした。14mmF1.8+120fps動画撮影および50mmF1.4+10秒露出静止画を撮影しましたがいずれにも写っていませんでした。今回は作業フローが確認できたので良しとします。今後快晴でない場合はこのパターンでビーム散乱光の撮影を狙いたいと思います。

直下の観測地候補における軌道

上空11kmから見下ろしたところ

2km離れた「長船美しい森」から見上げたところをシミュレート(HFOV14mm相当)

StreetViewによる現地画像確認

当日通過直後の様子 厚すぎる雲に阻まれ何も写らず、という記念撮影。

HKIR EOS6D+50mmF1.4 通過中心を挟んで10秒露出
このままでは確信が持てないので画像処理したのが下の画像
HKIR EOS6D+50mmF1.4 通過中心を挟んで10秒露出
PixInsight にて画像処理(DynamicBackgroundExtraction+CurvesTransformation)

やはり雲が厚すぎてレーザー光は届いていない模様でした。

QooQ